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東京家庭裁判所 平成10年(少)679号 決定 1998年3月13日

少年 H・D(昭和53.9.18生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、東京都板橋区○○付近等を活動拠点とする暴走族「○○」構成員らと行動を共にしていたものであるが、

第1  対立抗争を繰返していた同区○△付近を活動拠点とする暴走族「○□」の者等を迎撃することを企て、平成9年11月17日午後11時20分ころ、同区○×○町×丁目××番××号所在の板橋区立○△○公園において、A、B他十数名が、暴走族「○□」構成員らの生命、身体に共同して危害を加える目的を持って、鉄パイプ十数本(各約112センチメートル)の凶器を準備して集合した際、自らもその準備があることを知って集合し、もって、他人の生命・身体に対し共同して害を加える目的で、凶器の準備のあることを知って集合し

第2  C他数名と共謀の上、暴走族「○□」構成員等を襲撃することを企て、同11時30分ころ、同区○○×丁目××番ショッピング東側路上を原動機付自転車に乗って走行していた同会構成員のD(当時19歳)に対し「殺してやる、この野郎」「殺してやるよ、てめいら」等と怒号しながら、こもごも、所携の鉄パイプで、同人の肩、左腕、両足等を殴打するなどの暴行を加え、よって、Dに対し、安静加療約2週間を要する両肩、両前腕打撲血腫、上半身打撲、左第五指圧迫挫傷、血腫の傷害を負わせたものである。

(法令の適用)

第1の事実について 刑法208条の2第1項

第2の事実について 刑法60条、204条

(処遇の理由)

本件は、少年の交友関係者らが結成した暴走族「○○」の構成員Eらが、暴走族「○□」の構成員Fに暴行を加えたことから、同会のGらから「○○」の構成員に報復を加えられて対立が激化し、「○□」から襲撃されるのではないかと考えた少年らが、凶器を準備したり準備のあることを知って集合し、日ごろからの溜まり場に出向いたところ、「○□」の集団と出くわし、これらの者に集団で暴行を加え傷害を負わせたというものである。少年は、「○○」の構成員であることを争ってはいるが、その仲間らと行動を共にし、準備された鉄パイプを持って被害者らを追いかけ、威嚇するなど積極的にかかわっている。

しかも、少年は、平成8年3月に、道路交通法違反(無免許運転)等により交通短期保護観察処分を受け、さらに平成9年4月には暴走族と絡んだ傷害事件により観護措置をとられた上、保護観察決定を受け、専門家の補導援護を受けていたにもかかわらず、その決定からわずか7か月足らずで本件非行に至ったものである。

ところで少年は、高校進学に際し体育科を希望していたが果たせず、意に反した進学により感じていた不全感を、気楽で引け目を刺激されなくてすむ不良グループとの交友関係を継続する中でいやすうちに前件に至ったものであり、こういった友人関係の持ち方や、行動傾向が大きな問題点の一つと指摘されていたが、本件は、当時と同様、地元中学出身者と一緒になって行った前件と同質の非行であって、外面的には保護観察の経過をおおむね普通状態で推移しながら本件に至った点に照らすと、保護観察の枠組みが十分には機能していなかったものと見ざるを得ない。したがって、少年の再非行を防止するためには、現在の交友関係を断ち切り、地道な努力を体験させることで、ありのままの自分を受け入れられるようにすることが必要であるとみられるが、少年は、本件で身柄を拘束された後も、事件捜査を通じ友人も変化するだろうから交友関係は続けたいと述べるなど、少年の友人との関わり方などに対する認識は甘く、他方、少年の保護環境についてみると、家族は少年に対して理解があり、少年が自分の道を発見できることを支えて待つ姿勢を示し、少年に対し協力的である反面、前記のような少年の交遊関係上の問題点を見過ごしてきているばかりでなく、交友関係を絶たせる実効性のある具体的方策を見いだせないでいる。また、少年は現在19歳であって、今回を逃すと適切な保護処分の機会を逸しかねないことをも併せ考えると、試験観察の枠組みの中で少年の更生への可能性を見極めることも難しいと言わざるを得ない。

これらのことを考慮すると、この際、少年を施設に収容して、不良交遊の問題性等について内省を深めさせると共に、そのような交友関係の中で、強がった行動をとりがちであった行動傾向を改めさせる必要性があると認められるが、現在、少年は、椎間板ヘルニアにより専門医による経過観察を要することが認められるので、さしあたっては、医療措置を優先させる必要があると認められる。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により少年を医療少年院に送致することとするが、前記の事情にあるので、医療措置が不要と判断された場合には、速やかに中等少年院に送致し、本来の矯正教育を受けさせるのが相当であり、また、少年において、その問題点である、交友関係を断てずこれに依存しがちであった点を自覚し、生活状況改善に取り組む姿勢がみられるようになれば、少年自身勤労への構えはあり、保護者の指導への取り組みも積極的であるとみられるから、比較的短期間の指導で効果が上がるものと考えられる。そこで、その旨別途処遇勧告をする。

(裁判官 古田浩)

〔参考〕 処遇勧告書<省略>

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